人材の価値を中心軸に(全労生 前副議長・八野正一)

「一人ひとりが人間らしく、心豊かに生きていく持続可能な社会」の実現に向けて

① 生産性運動の原点を振り返る
 令和の時代を迎え、時代環境は大変革をみせている。グローバル化とデジタル化により経済社会構造が大きく変質する中、新型コロナ感染症のグローバルな拡大も経験した。生産性をめぐる政策、経営、技術革新、働き方が根本から問われている。日本では、人口減少、生産年齢人口の減少は他に類を見ないスピードで進み、日本が将来にわたり成長を持続するためには付加価値を継続的に創出することが求められている。この認識のもと、再度、原点である「生産性運動の理念」を振り返ってみてはどうであろうか。

② 「生産性運動三原則の今日的意義」~新しい時代に対応する生産性運動の再起動~
 目指すべき社会を実現するためには、技術革新に果敢に挑戦するのと同時に、人間を中心に据え、その価値と能力を高める社会の実現が期待されている。このことこそが、生産性の精神であり、原点に他ならない。新しい時代に即応して生産性運動を強化する観点から、その指針である「生産性運動三原則の今日的意義」が次のように確認された。

「雇用の維持・拡大」
 これからの社会において重要となるのは雇用、とりわけその質である。人間の価値と能力を高める仕事の創出が重要であることを確認する。

「労使の協力と協議」
 経営と労働の信頼関係が生産性改革の基盤である。デジタル化、グローバル化が進み、就労形態が多様化する中、産業企業の枠を超えた経営と労働の協力と協議の充実の必要性を確認する。

「成果の公正な分配」
 成長と分配の好循環は、付加価値の持続的な増大の重要な要素である。企業のステークホルダーが、株主、従業員、消費者、取引先、サプライチェーンへ、さらには地域社会にひろがっていることから、成果の公正な分配の必要性を確認する。

③ 生産性改革のエンジンは、いつの時代もイノベーションと人材の強化
 新しい日常において、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することが求められる。これを実現するには、デジタル化を生産性改革のど真ん中に据え、生産性の計算式の分子サイドに重点を置き、「雇用の質」、「人間の価値と能力を高める仕事の創出」、「労働の質」に焦点をあてることが重要である。「私たちの目指す社会」の実現のためには、「質的に発展する経済社会へと転換する」ことが大切である。その実現のためには「人材の価値を中心軸においた生産性向上をはかる」必要がある。「誰のための何のための生産性運動なのか」をしっかり議論し、構造的な課題と「私たちが目指す社会」のための「生産性改革」が、労働運動に今、求められている。

(「ネットワーク全労生」生産性新聞2023年8月25日号掲載)

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