個別の利害超越した行動を(全労生 前事務局長・久保直幸)

 バブル崩壊以降、失われた10年、20年、そしていまや失われた30年といわれ、長期にわたって日本経済は停滞を続けている(この間アメリカの実質GDPは2倍超に達した)。労働生産性の低迷を指摘する声があるが、付加価値総額が増えていない(品質に見合った価格が実現できていない)ことがその主因と考えるべきであろう。総額人件費抑制に拘泥し、デフレを言い訳にして賃金と価格の適正化を怠ってきた結果といえよう。イノベーションの必要性が説かれるが、イノベーションを起こす主体は経営者であり、価格の最終決定は経営者が行ってきたことを確認すべきである。

 男女雇用機会均等法が施行されて35年余、その後もダイバーシティや女性活躍などが叫ばれてきたが遅々として進まず、格差問題もしかりである。一方、ジョブ型雇用やリスキリングが喧伝されている。過去、年俸制、能力主義、成果主義などが提唱され、事実とは異なる年功序列制や終身雇用に対する批判や定昇コスト論が唱えられた。これらに通底しているのは、総額人件費管理に主眼が置かれ、勤労意欲や働きがいを高めるという人事制度本来の目的が希薄になっていることである。

 長年にわたり人材投資を怠った結果、日本の人材競争力ランキングは41位へと低下している。労働力不足を目の当たりにして「人への投資」と称してかつてない賃上げがされているが、真に「人」が成長や競争力の源泉と考えるのであれば、格差問題の解消や多様な働き方の実現を早急に具体化すべきである。

 全労生はたびたび個別最適が全体最適とはならないことを訴えてきた。しかしながら、現実は、労使ともに個別の短期的な結果を追い求めることに終始する結果となった。

 賃金と雇用は対立するものではなく、むしろ賃金が上がらないことが稼ぐ力を押上げる圧力とならず、勤労意欲の減退を招き、企業の成長力をそいでしまった。

 生産性運動は、効率を追い求めるものではなく、「今日は昨日よりもよりよくなしうる、さらに明日は今日にまさる」という確信をだれもが持てる社会を目指すものである。

 いまこそ、労使は自らが社会的存在であることを自覚し、個別の利害を超越した行動をすべきである。

(「ネットワーク全労生」生産性新聞2023年5月15日号掲載)

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